茶室の襖は、空間の緊張感やおもてなしの心を受け止める大切な存在です。とはいえ、張替えの場面では次のような悩みがよくあります。
- 茶室に合うふすま紙の種類や柄がわからない
- 寸法の測り方や引手・縁の選び方に自信がない
- 価格や手順、職人の選び方で失敗したくない
本記事では、素材・柄・寸法・施工のポイントを整理。茶室の格式を守りながら、張替えで清らかな印象を取り戻すための考え方と進め方を、実務に即してお伝えします。
茶室の襖の役割と張替える目的
茶室の襖は、光や視線、動線を整える道具であり、客の集中と亭主の所作を引き立てます。襖紙や引手、縁の選択は、茶室の作法や格式と密接に関わります。
張替えは単なる修繕ではなく、季節や席中の趣向に合わせて「場の空気」を整える仕事です。障子は採光と透け感、襖は間仕切りと背景づくりが役割。
紙の種類や模様、サイズや枚数、施工方法は、使い方と設えのバランスで決めます。職人の経験と紙の特性理解が、結果を大きく左右します。
次章では、茶室に合う素材とふすま紙の種類を紹介します。
茶室に合う素材選びとふすま紙の種類
和紙と機械抄き紙の違い
和紙は繊維が長く軽くて通気性があり、湿度の吸放出に優れ、反りにくいのが魅力です。手漉きは光の受け方がやわらかく、奥行きのある仕上がりになります。
機械抄き紙は均一で価格を抑えやすく、枚数が多い張替えにも向きます。茶室では、無地調や粉引き、雲母摺りなど控えめな意匠が馴染みます。
湿気が高い場所や水屋に近い位置なら、にじみや伸びに強い紙や耐久性の高い商品を選ぶと安心です。
下地と紙の相性
襖の下地は本襖(木骨+格子+下張り)と量産襖(襖ボード系)が主流です。和紙は本襖の呼吸性と相性が良く、機械抄き紙やビニル系は量産襖に馴染みます。
下張りの枚数や糊の種類(でんぷん糊/樹脂系)も仕上がりと安定に影響します。下地の欠けや波打ちは補修してから張ると、面が整い見栄えが段違いです。
ふすま紙の模様とデザインの選び方
茶室では、無地・鳥の子・唐紙・雲母刷り・砂子・霞・露芝・唐松など、静かな佇まいの文様が中心です。色は白茶や生成り、灰白など、光をやわらかく返すトーンが基本。
濃色は点前の背景が暗くなりやすいため注意します。
- 軸との余白が響く無地系
- 光を受けてわずかに浮く雲母・唐紙系
- 季節運用がしやすい淡彩の模様
柄が強い紙は広間や迎賓の和室には映えますが、茶室では主役を奪いがちです。用途に合わせて選び分けましょう。
障子との調和
障子の白さや透け具合に、襖の紙の白さと質感を合わせると統一感が出ます。障子と同時に襖を張り替えると、光の回り方と色温度が揃い、和室の印象が締まります。
寸法・サイズと寸法取り
京間・江戸間・本間の違いとサイズ比較
畳と同じく、襖の寸法は地域差があります。実測を優先しつつ、代表的な目安は次の通りです。
| 種類 | 代表的な間口×高さの目安 | 備考 |
| 本間(京間) | 約955×1,820mm | 西日本に多い。ゆとりあるサイズ |
| 中京間 | 約910×1,820mm | 中部に多い |
| 江戸間 | 約880×1,760mm | 東日本に多い |
| メーカーサイズ | 既製ボード規格 | 新建材の襖ボードで使用 |
計測は、間口なら上中下の3点、高さは左右で計測します。最小値に合わせて造作し、建付け調整で面を揃えるのが基本です。
引手・縁の仕様
引手は真鍮・木地・塗り・陶器など多彩です。茶室では黒塗りや溜塗の小振りな引手、あるいは丸引手が静かな印象を作ります。
縁は杉・檜・黒檀調など。装飾は抑え、紙と縁・引手のバランスを優先すると、所作がきれいに見えます。
枚数と間取りの計画
二枚立て、四枚立て、躙口脇の片引きなど、枚数で見付けの割りや柄の見え方が変わります。連続面では柄の「つながり」を前提に、柄合わせの施工を依頼しましょう。
複数枚を同時張替えすると、紙質や色のロット差が出にくく、統一感が保てます。
尺寸換算とオーダー方法
既製サイズで合わない場合は、寸法オーダーが確実です。見積時に実寸のほか、湿気や採光など部屋の環境も共有しましょう。
職人から建付けや反りを見越した調整提案が受けられ、仕上がりの精度が上がります。
施工の流れと方法、職人作業の要点
張り替え作業の手順
- 引き取り
- 旧紙の剥がしと下地確認
- 下張り(必要に応じ数枚)
- 中張りで面を整える
- ふすま紙の本張り
- 縁・引手の取り付け、建付け調整、納品
糊の濃度や紙の含水、室内の湿度管理が仕上がりを左右します。張りは一気に伸ばさず、紙のクセを見ながら均等に。
角の処理や耳の返しは、薄手の和紙ほど繊細です。道具痕を残さない力加減が求められます。
仕上がりを左右する環境条件
施工日は室温15〜28℃、湿度40〜65%が目安です。乾き過ぎは紙が縮み、湿り過ぎは伸びて波打ちの原因になります。
納品後は急激な加湿や暖房の直風を避け、ゆっくり馴染ませるのが長持ちのコツです。冬は前日からの予備暖房、夏は除湿と直射日光の回避が有効。
納品後48時間は強い開閉を控え、縁を持ってやさしく扱いましょう。
よくある失敗とデメリット・注意点
- 価格優先で紙が薄すぎ、下地が透ける
- 紙と下地の相性不一致で、剥離やシワが出る
- 引手サイズが不適合で、手元の所作が不快
- 枚ごとの色差・柄ずれで連続面の統一感が崩れる
- 使用環境への配慮不足で、早期の反りやカビが発生
事前の現地確認と職人の経験で多くは回避できます。「紙の種類」「糊の種類」「下張り枚数」「施工環境」の4点は必ず確認しましょう。
価格の目安と見積もりのチェックポイント
価格は紙の種類、サイズ、下地補修、柄合わせの有無で変わります。下は目安です。実際は現地状況で増減します。
| 内容 | 参考価格(1枚) | 備考 |
| 機械抄き無地 | 6,000〜10,000円 | 量産襖に適合 |
| 和紙(鳥の子クラス) | 10,000〜18,000円 | 茶室の基本 |
| 唐紙・雲母・意匠紙 | 18,000〜40,000円 | 柄合わせで加算 |
| 下地補修 | 1,000〜5,000円 | 剥がし・歪み補修など |
| 引手交換 | 1,000〜8,000円 | 素材で幅あり |
| 出張・運搬 | エリアにより加算 | 枚数で調整 |
見積書では、紙の「商品名」「種類」、下張り工程、引手・縁の仕様まで明記されているか確認を。曖昧な表記はトラブルのもとです。
茶室の格式を守る柄と伝統のルール
茶室の柄選びの基本と伝統
茶室は「余白」を味わう空間です。柄の主張を抑え、光でわずかに表情が立ち上がる紙が定石になります。
唐紙の版木模様や雲母摺りは、軸や花、茶器を引き立てます。主客の動線に重なる位置へ強い模様を置かないのも大切な配慮です。
待合や次の間、広間では、少し装飾性のある意匠も選択肢に入ります。リフォーム全体の設計意図に沿って張替えをコーディネートしましょう。
季節替えと枚替えの運用
- 初夏〜盛夏は白度の高い無地や淡彩で清涼感を演出
- 秋〜冬は生成り・灰白や雲母のきらめきで静けさを強調
- 早春は霞や唐松など、芽吹きをほのめかす柔らかな模様
茶事が多いお宅では、枚単位での入れ替えを想定し、柄合わせとサイズ統一を事前に設計すると運用がスムーズです。
事例紹介
都市部の木造住宅にある四畳半の茶室。老朽化した襖を鳥の子系の和紙で張替え、縁は黒溜塗、引手は小ぶりの丸引手へ。障子も同時張替えし、紙の白さを近づけました。
結果、光の回りが整い、点前の所作がくっきり映える空間に。襖4枚で材料・作業・運搬込み約9万円。来客からも「清らかな印象に変わった」と好評でした。
メンテナンスと使用後のケア、リフォームとの連動
使用環境と湿度管理
襖と和紙は呼吸する素材です。過乾燥は縮み、過湿は伸びやカビの原因になります。朝夕の短時間換気で湿気をためないことが基本です。
直射日光は簾や障子でやわらげ、冬の加湿は50%前後を目安に。暖房の直風は避け、開閉は縁を持ってやさしく行いましょう。
汚れは乾いたやわらかい布で軽く払う程度に。強い拭き取りや薬剤は紙を傷めます。
障子・畳との同時リフォーム
障子の白さや透け感、畳表の色味は、襖の見え方を大きく左右します。同時期の張替えで光と色温度を揃えると、空間の完成度がぐっと上がります。
カタログや見本帳を並べ、実際の和室の光で確認しながら選ぶと、仕上がりのズレを防げます。
店選びと職人の経験・商品ラインナップの見極め
確認したいのは次の点です。
- 茶室の施工経験があり、事例の説明ができるか
- 取り扱うふすま紙や和紙の種類が豊富で、商品名が明確か
- 見積に「商品名」「下張り枚数」「糊の種類」「納期」「内訳」が記載されているか
- 現地採寸と下地診断を前提に、仕上がりの説明と提案があるか
経験に裏打ちされた提案は、仕上がりと価格の納得感につながります。疑問は遠慮なく質問しましょう。
まとめ
茶室の襖張替えは、余計な足し算をせず、素材と設えで整えるのが肝心です。和紙やふすま紙は役割に合わせて選び、下地と糊の相性を整えることで、端正な面と安定した張りが得られます。
寸法は実測を基準に、引手と縁は紙の気配を邪魔しない仕様に。施工では温湿度管理と丁寧な手順が仕上がりを決め、納品後の環境づくりが寿命を伸ばします。
障子や畳との同時リフォームで光と色を揃えれば、茶室全体の品格が引き立ちます。
最終目的は、格式を守りつつ清らかな印象を長く保つこと。信頼できる職人と計画を共有し、無理のない価格で確かな施工を選びましょう。

